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肛門病の総称を痔といいます。肛門周囲に分布する静脈叢が鬱血し,瘤をつくったものを痔核,肛門皮膚の慢性の裂傷が裂肛,肛門腺が化膿して肛門周囲の皮膚に開口したのが痔瘻です。肛門は直腸の末端に位置し,直腸に溜まった便を排泄する出口です。肛門と直腸は歯状線によって区切られ,歯状線より上の直腸は粘膜で覆われ,歯状線より下の肛門は皮膚で覆われています。直腸粘膜には知覚神経はありませんが,肛門には知覚神経が分布しているので,痛みを感じるのです。歯状線上には肛門線が=肛門小窩が輪を描くように存在し,便の通りを滑らかにする粘液が分泌されます。また,肛門の周囲には不随意筋である内括約筋と髄意筋である外括約筋がぐるりと取り巻き,この2つの肛門括約筋によつて肛門の開閉が行われます。このような肛門と下部直腸の下層には,直腸静脈叢が網目状に発達しております。これが痔の発症と深く関係します。
痔は3つに大別されます。@ イボ痔といわれる痔核 A 切れ痔といわれる裂肛,B 穴痔といわれる痔瘻 に区分されます。
肛門の歯状線近くには細い静脈のかたまり=内痔静脈叢があって,正常では肛門のクッションの役を果たしています。これが,便秘,排便時のいきみ,長時間の立ちぱなしや座りっぱなしなどによって鬱血しますと,ふくらんで隆起=怒張と膨隆してきます。これが内痔核です。肛門の静脈叢は,立居では腹圧がかかり,逆流防止の弁をもたないため,鬱血を起しやすいのです。
上痔核のおもな症状は,出血と内痔核の肛門外への脱出で,症状の程度により1〜4度に分けられます。1度は静脈の怒張と膨隆,2度は排便時に脱出するが,自然に元に戻る,3度は排便時に脱出し,押し戻さないと元に戻れない,4度は常時脱出です。3度と4度の症状になると手術が必要です。内痔核が長期にわたって脱出を繰りかえしていると,皮膚の隆起がみられるようになります。これを外痔核といいます。外痔核に血栓や血腫ができると痛みは著しいものになります。また,脱出した内痔核が元に戻らなくなった状態が痔核嵌頓で,これも痛みが激しいものです。
肛門皮膚がかたい便で切れた症状を裂肛といいます。強度の便秘症にともなって発病することが多く,排便時に激しい痛みがあります。その痛みのため排便を避けることで便秘症が悪化し,裂傷がさらにひどくなります。
歯状線付近には,多数の肛門腺が開口しています。この部分には糞便が溜まりやすく感染を起しやすいものです。肛門腺の急性の化膿性炎症を肛門周囲膿瘍といい,慢性の炎症が痔瘻といわれるものです。肛門周囲膿瘍では,肛門腺に沿って外側のさまざまなところに膿が溜まり,痛みを伴う化膿性腫瘤が形成されます。切開しますと,多量の排膿がみられます。一時的に治癒することは少なく,最終的には肛門周囲の皮膚に口が開いて膿が出るようになります。これが痔瘻です。
痔の種類を主に目視検査で診断します。
治療は痔の種類で異なります。それぞれが原因や症状が違うので当然のこと治療も異なります。痔核は性別を問わず痔病の半分を占めるものです。外痔核は肛門周囲に小さなしこりをつくります。ズキズキした痛みはありますが,出血はほとんどありません。座薬や外用薬の塗布で治療しますと1ケ月ほどで治ります。内痔核は便秘や下痢,長時間の同一姿勢や妊娠・出産,酒の飲みすぎなど肛門に負担のかかることがすべて原因になります。内痔核の治療はさまざまなものがあります。内痔核が内か外にあるかで内科的・外科的の治療になります。まず症状が出血だけで痔核が脱出していないときは,座薬や外用薬の塗布,内服薬の服用などの内科的治療を行います。
内痔核が肛門部までおよび外痔核を伴って肛門外へ飛び出している場合は外科的な治療が必要です。一般的には内痔核の根元の動脈を糸で縛り,突出した痔核を切除する結紮切除法を行います。最近,注目されている半閉鎖式痔核根治手術は,この結紮切除法で開いた傷口を糸で縫い合わせるもので,手術後の痛みが軽減され,きれいに早く治ります。入院は10日前後です。噴出性の出血のみの場合は,内痔核に硬化剤を注射し痔核を固め血止めする硬化療法があります。外来の1回の注射で1〜2年の持続効果が期待できます。麻酔は使いません。
直腸の中に出来た比較的小さな内痔核が肛門外へ出てしまっているときは,特殊な器具を使って小さな輪ゴムを痔核の根元にはめるゴム輪結紮療法を行います。約10日くらい後に輪ゴムが自然にとれて治癒します。これも外来で麻酔を使わずに行います。
裂肛は硬い便によって肛門の出口を傷つけられた外傷です。軽い症状のうちは耐えられる痛みと出血くらいです。ひどくなりますと,切れた部分が深まって潰瘍=肛門潰瘍を生じます。やがて潰瘍の周りがでこぼこし,肛門を取り囲む括約筋にまで炎症が広がります。そして肛門が狭いまま固まる肛門狭窄症へ発展し排便障害を引き起こしますが,これがまた新たに裂肛の引き金になるといった悪循環を作り出します。若い便秘がちの女性に多く見受けられる痔病です。症状の軽いうちは座薬や軟膏で治ります。しかしそれだけでは治療効果がなかったり再発を繰り返すときは,内括約筋の一部を切る内括約筋側方切開術を行います。内括約筋は一定の力で肛門を常に締めている筋肉ですが,裂肛による痛みで痙攣を引き起こします。その痙攣場所を切って肛門を広げ,排便しやすくして治療します。裂肛に潰瘍やポリーブができて慢性化した場合は,それらを取り除きます。切除場所が大きいときは,肛門の外側の皮膚を移植します。
痔瘻の治療には括約筋温存術を行います。痔瘻は直腸,肛門腺の感染症で,便の中の細菌が直腸と肛門の境にある歯状線のくぼみへ侵入し,組織の隙間など弱い部分を伝わって広がり,さまざまな部位に膿瘍を形成します。内括約筋と外括約筋の間に膿を溜める括約筋間膿瘍が最も頻度が高く,他に坐骨直腸窩膿瘍,挙筋間膿瘍など膿瘍の広がりによってさまざまに分類されます。この膿が体外へ排出され瘻管を形成したものが,痔瘻です。肛門周囲膿瘍は,まず膿を肛門皮膚側へ切開排膿します。このまま治るケースもありますが,痔瘻が形成された場合は根治手術を行います。痔瘻の治療は,確実な原発巣の切除が大切です。迂生は戦争中の南方密林の野戦病院でこの手術を受けました。つまり括約筋を切り開いて瘻管を摘出しました。最近は,括約筋を残す括約筋温存術式で取り除くようになりました。